文責:布袋善久
不正咬合の治療のために、永久歯の抜歯が必要な場合があります。初めて聞かれた方は、歯並びを治すのに「なぜ歯を抜くの?」、「抜いた後は、入れ歯?」と疑問をお持ちの方もたくさんおられると思います。
もちろん、すべてのケースで永久歯の抜歯が必要な訳ではありません。一見よく似た不正咬合であっても、その開始時期によって、あるいは求める治療結果によって、使用する装置や抜歯非抜歯などの治療方針が異なってきます。
当院での矯正治療(特にお子様の場合)では、非抜歯での治療を基準に考えております。ただし、顎の成長が終了した大人の方の場合は、非抜歯での治療に限界もあり、抜歯しての矯正治療をおすすめすることもあります。ここでは、少しでも、その違いを理解いただけるよう、非抜歯での矯正治療と永久歯の抜歯ともなう矯正治療の両面からお話いたします。
同じような不正咬合であっても、開始時期によって、多くのケースで非抜歯での治療が可能です。いくつかの例を交えて、ご紹介いたします。概ね、小学校半ば(8〜9歳)までにご相談いただけましたら、良い結果となることが多く、その時期までの検診をおすすめいたします。時期を逸したばかりに、抜歯治療となるのは、非常に残念です。
次の二人の患者さん、性別の違いはありますが、同じように見える上顎前突です。また、その治療結果も大差無いように見えます。
初診時
動的治療終了時
初診時
動的治療終了時
Case1は非抜歯で矯正治療を行い、Case2は上顎の小臼歯抜歯で矯正治療を行っております。違いは、来院された年齢が異なります。その為に、抜歯非抜歯の方針が異なっております。
Case1では、上顎の第二大臼歯(12歳臼歯)萌出前であったため、上顎の成長を抑制するヘッドギアーを有効に活用することが出来ました。Case2では、年齢は4歳違いですが上顎第二大臼歯の萌出が完了しており、上顎大臼歯の後方への拡大は行いませんでした。その為、上顎小臼歯を抜歯させていただき、上顎の前突感を改善しております。このように、同じような骨格性の不正咬合であっても、来院時期によって、治療方針が異なります。Case1では、12歳と非抜歯治療としては、比較的、遅い来院でしたが、できれば、小学校半ばでの来院をお勧め致します。
次は、叢生(歯のデコボコ)の二人の患者さんです。今度は、性別も同じ、また、程度も同じに見える叢生です。また、その治療結果も同じく、大差無いように見えます。
初診時
動的治療終了時
初診時
動的治療終了時
Case3は非抜歯で矯正治療を行い、Case4は上下顎の小臼歯抜歯で矯正治療を行っております。違いは、やはり来院された年齢が異なります。その為に、抜歯非抜歯の方針が異なっております。
Case3では、上顎の第二大臼歯(12歳臼歯)萌出前であり、上顎の後方への拡大を十分に行うことができ、非抜歯での配列が可能となりました。Case4では、上顎第二大臼歯の萌出が完了しており、プロファイル的にも前突感を認めたため、上下顎の小臼歯を抜歯させていただきました。この2症例も、初診時と動的治療終了時の結果を比べると、大差は無いように思えます。ところが、その来院時期によって、治療方針が異なっております
以上のケースを含めて、叢生、上顎前突、下顎前突などは、早期に開始することで、非抜歯での治療の可能性が高くなる例と言えます。
以上、ご覧いただきましたように、一見よく似た不正咬合でも、その開始時期などによって、治療方針が変わってきます。また。求める治療結果によって、抜歯非抜歯が決まることがあります。ただ、お子さんの矯正治療の場合、適切な時期にご相談いただくことにより、非抜歯で矯正治療を受けていただける可能性が非常に高くなります。そのためにも、小学校半ばまでに一度、矯正歯科を受診されるようおすすめいたします。
「抜いてもしっかり治す」ためには、非抜歯治療と同等にしっかりした技術が必要です。また、抜歯しての矯正治療は簡単で安易な治療ではありませんが、「抜いても安心」と言うことはご理解いただけましたでしょうか。ご理解いただいた上で抜歯してまで矯正治療を受けるかどうかは、最終的に患者さんの価値観・判断によるものになるかと思います。
大人の方を含めて永久歯への交換後方でも、もし矯正治療に興味が湧くようでしたら「思い立ったが吉日」です、一度矯正歯科を受診されてはいかがでしょうか。