セルフライゲーション型マルチブラケット装置
(デーモンシステム)とは
ワイヤーとブラケットを結紮せずに歯の動きを妨げない
矯正治療システムです
デーモンクリアの登場で審美面で大幅な改良がなされました
セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)は、アメリカの歯科矯正医であるDr. Dwight H. Damonが考案し、Ormco社から販売されている最新の矯正治療システムです。このシステムは、デーモンブラケットとハイテクワイヤーから成り立っています。ブラケットとは、歯に直接接着される器具のことをいい、デーモンブラケットは従来の製品とは全く異なった構造を持つ、超精密なブラケットです。また、このシステムで使用されるワイヤーはハイテク技術で作り出された形状記憶合金で、ハイテクワイヤーと呼ばれています。
従来の矯正における歯の移動は、ブラケットにワイヤー強く縛り付けた状態で行っていました。しかし、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)では、デーモンブラケットにハイテクワイヤーを軽く接触させているだけで、強く縛り付けないことに成功しました。その結果、従来の矯正とは異なる歯の移動を実現しました。
その結果、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)を選択される患者さんが急速に増え、短期間のうちに世界中で200万症例を突破しました。
ところが、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)にも弱点がありました。日本では、白色のセラミックブラケットなど、目立ちにくい装置が好まれており、メタルの含まれるデーモンブラケットは審美的に劣っていました。しかし、白色セラミック製の『デーモンクリア』が発売され、審美面での死角もなくなりつつあります。
左の写真は、デーモン先生自らの症例です。歯の見えている範囲が広がっていますし、口角の暗い影も目立たなくなっています。こぼれるような白くて広い歯列になると、とても明るい笑顔に変わります。この魅力的な笑顔を感じ取って下さい。
従来はブラケットとワイヤーをエラスティックで強く締め付けていましたので、大きな摩擦力が生じていました。
デーモン・システムではエラスティックが不必要となり、ブラケットに付属するシャッターを閉じるだけです。ワイヤーをまったく締め付けないようになったため、摩擦力は従来の600分の1になりました。
それでは、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)のメリットとデメリットを詳しく説明します。
歯に接着されたブラケットにワイヤーを通して矯正力を加えると、ブラケットと歯は一塊になって、ワイヤーに沿って動いていきます。ワイヤーとブラケットの間に生じる摩擦力が大きければ大きいほど、歯は動きにくくなってしまいます。しかし、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)の場合、その摩擦力が従来のものに比べて600分の1に軽減されているため、弱い力でも歯が動きます。氷の上の方が物も滑りやすいのと全く同じ原理です。
不正でデコボコした歯並びに沿って、ハイテクワイヤーを装着すると、その形も歯列と同じくデコボコになります。そして、ワイヤーが記憶していた元の形に戻ろうとする復元力を利用して、歯の移動が行われます。しかし、ブラケットとワイヤーを強く締め付けると、強力な摩擦により、ワイヤーは元の形に戻れません。ところが、摩擦の極めて少ないデーモンブラケットと一緒に使用されると、この変形した状態のハイテクワイヤーは、元の形に戻るまで摩擦に邪魔されず、弱い力を発揮し続けます。弱い力で歯が動くのかと疑問に感じられるかもしれませんが、弱くて持続的な矯正力が働くと歯が最も速く効率的に動くことが生物学的に分かっています。
美しい笑顔とは、しっかりと上の歯がみえることが大事で、また、歯列のアーチの広い方が、口角に暗い影ができなくて明るく見えます。通常のブラケット装置では、歯列が自然と横に拡大されることはなかったのですが、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)では自然と横に広がります(メリット④を参照)。そのため、口を開けば、しっかりと歯が見える明るい笑顔になります。
セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)により歯に活性を与えると、その支持組織である歯槽骨・歯周組織も、歯と共にダイナミックに動きます。そして、舌や口腔周囲の筋肉からの力を受けて、歯列は側方へ自然と拡大します。今まで拡大が難しいとされていた成人でも拡大することがありますので、子供だけでなく成人にとっても非抜歯治療の可能性が高まります。ただし、口元や咬合の状態により歯を抜くかどうか判断しますので、全ての患者さんが非抜歯で治療できるわけではありません。
矯正治療中は、顎間ゴムと呼ばれる小さな取り外し可能な輪ゴムを、上下の歯に掛けて頂く場合があります。このゴムにより、噛み合わせをしっかりした状態にしたり、受け口や出っ歯を改善したりします。従来の装置では、歯をワイヤーにしっかりと縛り付けていたため、個々の歯の動きが規制され過ぎていました。そのせいで、顎間ゴムが効きにくかったのです。また、顎間ゴムの力も強める必要がありました。しかし、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)では、個々の歯が自由に動けるような状態でワイヤーにつながれているため、弱い顎間ゴムでもとても良く効きます。
従来は、ワイヤーをブラケットにとめるために使用していたエラスティックの周囲が不潔になりやすく、清掃性が悪かったのですが、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)では、エラスティックが不要になったので、とても清掃しやすくなっています。歯垢は、虫歯や歯周病、口臭の原因になりますので、お手入れのしやすさが何よりです。
ブラケットにワイヤーをとめるのに使用していたエラスティックが不要になりましたので、1回あたりの治療時間も短くなります。長時間口を開けっ放しにするのは辛いものですから、治療時時が短くなったことにより気楽に通院して頂けます。もともと矯正歯科では、歯を削ったり、麻酔をしたりということがほとんど有りませんので、治療時間の短縮と相まって、お子様の矯正治療でメリットを感じます。
デーモンブラケットとハイテクワイヤーを組み合わせて使用すると、長期間にわたって持続的な矯正力と効果を発揮しますので次回の来院まで、矯正力が有効に働きます。ただし、早めに来院して頂いた方が治療の短縮につながる場合や、治療の段階によって来院頻度が異なる場合もあります。
自然な拡大効果を期待できますので、急速拡大のような大きな装置が不要となることが多いです。また、動いては困る大臼歯が、勝手に前方へ動いてしまうようなことも少ないため、大きな大臼歯固定装置を必要としません。このように、通常、歯の裏側に大きな装置を使いませんので、清掃しやすく、発音にも問題が起こりにくいです。ただし、どうしても積極的に歯列拡大をしたい場合や大臼歯が不安定な場合など、舌側装置と併用することがあります。
自然な歯列の側方拡大効果など、患者さん各人の持てる力を引き出した結果です。また、弱い矯正力のおかげで、食事中の歯が噛み合わさった時でも、歯と歯を支えている歯槽骨・歯周組織との間で、本来持っているダイナミックな反応が起こりますので、歯の生理的な状態が維持されます。セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)では強引に歯を並べるのではなく、無理をせず自然な変化として歯をキレイに並べてゆきます。
生物学的に理にかなった力で矯正できるため、歯周組織への為害作用が少ないだけでなく、むしろ歯周組織が健康になることもあります。装置自身の清掃性が良いことと、歯が並ぶに従い磨きやすくなることも、歯周組織の健康にプラスとして働きます。
人には機能的咬合系という、噛み合わせに関するシステムが備わっています。そのシステムとは、サッカーのチームプレイに似ていて、脳・中枢が司令塔となり、咀嚼筋・歯・顎関節の3つの要素が相互に連係しバランス良くコントロールされて、噛み合わせが決められているというものです。
もし、歯に異常が起こると、このシステムはどうなるのでしょうか。サッカーに置き換えて考えると理解しやすいのですが、攻撃の起点となっている主力選手が抑えられたら、他の選手達との連係がちぐはぐになり、個々の選手は大変な負担を強いられ、そして、チームは試合に負けてしまうでしょう。つまり、歯に異常が起こると、他の2要素である咀嚼筋や顎関節にも悪影響が及び、最終的には、噛み合わせにも狂いが生じます。
セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)では、従来よりも弱い矯正力によって歯に与えるダメージを最小限にできるため、咀嚼筋や顎関節にかかる負荷も軽減されます。
従来のセルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)では、ブラケット全体が金属製であったり、一部に金属が含まれていたりしたため、審美的には、セラミックブラケットに比べて劣っていました。しかし、デーモンクリアの登場で、審美面でもデメリットはなくなりつつあります。現在、デーモンクリアは上顎の前歯部のみご選択頂けます。下顎については発売予定がありませんので、従来からのデーモンブラケットと組み合わせて使用致します。笑ったときに歯の見える範囲は人それぞれですが、たいていは下顎の歯が見えませんので、「あまりデメリットは感じない」とのご感想を頂いております。
装着感ですが、従来のデーモンブラケットは大きく、厚みも大きかったため、あまり快適とは言えませんでした。しかし、改良のたびに小型化され、装着感は他のブラケット装置と比較して劣っていないように思います。
当院で実際に治療したケースを供覧して頂きます。セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)では、歯の動きが速いことをご確認ください。また、歯列が拡大する様子や、抜歯した後がどうなるかも合わせて詳細に見てゆくと、治療の流れがイメージしやすくなると思います。
上の歯の不正を主訴に来意された22歳男性です。セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)を用いてエッジワイズ治療を行いました。治療終了までの過程を順にご覧下さい。
初診時の状態を見てください。上下顎の前歯が乱ぐい状態になっています。こういう状態を矯正歯科では叢生と呼びます。また、上顎前歯が、下顎前歯より11mmも前に出ています。いわゆる出っ歯ですが、矯正歯科では上顎前突と呼びます。これらの所見より、この症例の診断名は、上下顎前歯部に叢生を伴う上顎前突症となります。
上顎は前から数えて4番目の歯を抜きました。これは、上顎前歯を後退させるためです。下顎は叢生が酷いものの、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)による拡大効果を期待して、非抜歯で並べることにしました。
治療後2ヶ月目の写真です。上下顎とも、歯が動き始めているのが確認できますが、特に下顎の歯の移動が明らかです。
治療後4ヶ月目の写真です。驚くことに上下顎とも叢生状態がほぼ改善されています。また、右端の写真を見ると、上顎前突も急速に改善されたことが分かります。上顎の抜歯スペースが半分くらいになっているのが確認できます。また、下顎の叢生は歯列が横方向に拡大されたことにより改善されました。このような、劇的な変化は、他の装置ではなかなか認められないものです。
治療後9ヶ月目の写真です。抜歯でできたスペースを閉じるために、Closed coilと呼ばれる、伸ばした状態でセットすると持続的に縮んでいくバネを装着しています。抜歯スペースがさらに少なくなったのが確認できます。その後スペースを完全に閉じるのに、4ヶ月かかりました。
1年8ヶ月目に装置を撤去した時の写真です。全ての歯がキレイに並び、抜歯してできたスペースも完全に閉鎖されています。上顎前突も見事に改善されています。スペースを閉じてから⑥までは7ヶ月かかりました。最初の頃の治療ペースと比べると、とても遅く感じますが、この段階・時期をフィニッシングといって、しっかりとした噛み合わせを確立するためにどうしても必要な期間になります。セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)といえど、このフィニッシングをいい加減にすると、後戻りの原因になりますので、治療に慎重さが要求されます。
動的治療終了までに20カ月を要し、治療費は75万円(税抜)となりました。
尚、治療開始に際し矯正治療には虫歯、歯周病、歯の変色、歯肉退縮、歯根吸収、顎関節症、後戻りなどのリスクをご説明しました。
下顎前歯の裏側には、細いワイヤーが接着されていますが、これは、歯並びが後戻りしないようにするためです。写真には示していませんが、上下顎とも夜間就寝時に、リテーナーと呼ばれる取り外し式の装置も併用して、後戻りを防いでいます。
世界中では百数十種類ものブラケットが販売されているらしいのですが、これほどの短期間に200万症例以上も売れたブラケットはないと思います。それは単にブラケットの完成度が高いだけでなく、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)で治した症例のクオリティがあまりにも高かったのだと思います。
ブラケットの開発競争は激しく、他社からも魅力的なセルフライゲーションブラケット(セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)のように、ワイヤーを縛り付ける必要のないブラケットの総称)が続々と発売されてきました。シェア争いは激化していますが、デーモンクリアの発売により、セルフライゲーション型マルチブラケット装置(デーモンシステム)が頭一つ抜け出す格好になったように思います。強度・快適性・審美性において間違いなくトップだと私は思っています。